河田一臼作品の墨場必携



河田一臼先生・作品の墨場必携

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◆一臼先生・漢詩語句 (多文字屏風〜)

 

 

◎「春江花月夜」=出典:張 若虚・春江花月夜 

春江潮水連海平 海上明月共潮生 灔々隨波千萬里 何處春江無月明 江流宛轉遶芳甸 月照花林皆似霰

空裏流霜不覺飛 汀上白沙看不見 江天一色無繊塵 皎皎空中孤月輪 江畔何人初見月 江月何年初照人

人生代代無窮已 江月年年望相似 不知江月照何人 但見長江送流水 白雲一片去悠悠 楓浦上不勝愁

誰家今夜扁舟子 何處相思明月樓 可憐樓上月徘徊 應照離人粧鏡臺 玉戸簾中巻不去 擣衣砧上拂還來

此時相望不相聞 願逐月華流照君 鴻雁長飛光不度 魚龍潜躍水成文 昨夜閑潭夢落花 可憐春半不還家

江水流春去欲盡 江潭落月復西斜 斜月沈沈藏海霧 碣石瀟湘無限路 不知乘月幾人歸 落月搖情滿江樹

【読み】

<春江の潮水海に連なりて平らかなり 海上の明月潮と共に生ず 艶艶として波に随ふこと千万里 何れの処の春江か月明無からん> <江流宛転(エンテン)として芳甸(ホウデン)を遶(メグ)り 月は花林を照らして皆霰(アラレ)に似たり>

<空裏の流霜は飛ぶを覚えず 汀上の白沙は看()れども見えず 江天一色無絨塵 皎皎(キョウキョウ)たり空中の孤月輪 江畔何人か初めて月を見し 江月何れの年か初めて人を照らす>

<人生代代窮(キワ)まり已()むこと無く 江月年年望みて相似たり 知らず江月何人をか待つ ただ見る長江の流水を送るを 白雲一片去りて悠悠たり 青楓浦上愁ひに勝へず>

<誰が家ぞ今夜扁舟の子 何れの処にか相思ふ明月の楼 憐れむ楼上月徘徊し まさに照らすべし離人の粧鏡台 玉戸簾中巻けども去らず 擣衣(トウイ)砧上(チンジョウ)払へどもまた来たる>

<この時相望めども相聞かず 願わくは月華を逐いて流れ君を照らす 鴻雁長飛して光度(ワタ)らず 魚竜潜躍して水文を成す 昨夜間潭落花を夢む 憐れむべし春半ば家に還らず>

<江水春を流し去りて尽きるを欲し 江潭の落月西に斜めなり 斜月沈沈として海霧に蔵(カク)れ 碣石(ケッセキ)瀟湘(ショウショウ)無限の路  知らず月に乗じ幾人か帰る 落月情を揺るがして江樹に満つ>

【大意】

春の長江に満ちる潮は遠い海までも続くようだ。 空の明月は、まるで満ちてきた潮と共に生まれてきたように、波にきらめく月の光は千万里も続いている。 川の流れは春の野をめぐり、月光は花咲く林を照らしてまるで霰のように見える。

空中に流れる霜は飛ぶように見えてそうでなく、川のほとりの白い砂も砂なのか月光なのかわからない。川の水も空も一色に澄み渡って、白々と冴え渡るのはのはただ空の月輪だけである。 川べりで初めて月を見た人はどんな人だったんだろうか、この川を照らす月が初めて人を照らしたのは一体いつのことだったのだろうか。

人の一生は代々替わって留まることは決して無いが、この川の月は決して変わることは無い。知らない、この月がいったい誰を待っているのか。私が見ることが出来るのは、ただ長江がひたすら流れる有様なのだ。白い雲の一片がゆっくりと流れていく、青い楓のほとりに愁いに勝てない私がいる。

いったい誰なのであろうか今夜小舟に乗る人は、いったい何処にあるというのだろう 想う人のいる高殿は。 ああ 高殿のあたりには月の光が揺れ、離れて暮すあの人の鏡台を照らす、 玉の扉の簾の中に巻きこんでしまうことも出来ず、砧の上に振り払っても振り払っても降り注いでくる。

この時あなたのいる方を望んでみても何の便りもこない。願わくは月の光を追いかけて流れてあなたを照らしたい。雁は遠くに飛び立ち光りも届かないし、魚たちは水中深くしずみ水面に波紋をなすだけである。 昨夜静かな淵に花が落ちる夢を見た、ああ春はもう半ばだというのに家にも帰れない。

長江の水は春を流し去り すでに春も終わろうとしている。長江に沈む月は、もう西に傾いている。傾いた月は深く沈み海霧に隠れる。北の碣石の山から南の瀟湘の川まで限りなく続く路。 月の光りに乗じて帰りついた人は幾人いただろうか、落月は情を揺れ動かして、今も木々を照らしている。

 

◎「北門行」=出典:鮑照・代出自薊北門行

羽檄起邊亭 烽火入咸陽 徴騎屯廣武 分兵救朔方  嚴秋筋竿勁 虜陣精且強 天子按劍怒 使者遙相望

鴈行縁石徑 魚貫度飛梁 簫鼓流漢思 旌甲被胡霜  疾風衝塞起 沙礫自飄揚 馬毛縮如蝟 角弓不可張

時危見臣節 世亂識忠良 投軀報明主 身死為國殤

【読み】    <薊(燕の国)の北門より出る>

<羽檄は邊亭に起り 烽火は咸陽に入る 騎を徴して廣武に屯す 兵を分け朔方を救う> <嚴秋の筋竿は勁く 虜陣は精にして且つ強なり 天子は劍を按じて怒り 使者は遙かに相望す>

<雁行して石徑に縁り 魚貫して飛梁を度り 簫鼓は漢思を流す 旌甲は胡霜に被むる> <疾風は塞を衝いて起り 沙礫は自ら飄揚す 馬毛は縮まりて蝟の如く 角弓は張るべからず>

<時危くして臣節を見 世亂れて忠良を識る 軀を投じて明主に報じ 身死して國殤と為らん>

【大意】

軍を徴兵する命令は辺境の宿場から出て、のろしは咸陽にも入ってきた。騎馬隊を廣武方面に駐屯させて、そこから兵を出して朔方を救わせた。 きびしい秋になって弓などは硬くなり、匈奴はますます強くなる。天子は怒って剣の柄に手を掛け、使者をくり出しては命令を伝える。

雁が連なるように石だらけの道を進軍し、魚が連なるように高い橋を渡っていく。簫や鼓の音はふるさと漢から吹く涼風に伝わり、旗や甲は胡の国の霜をかぶっている。 疾風が要塞に突きあたって強まり砂塵が巻き上がる。馬毛は寒気のためにはりねずみのようになり、角で飾った弓は張ることもできない有様だ。

世が危なくなって臣下の節操がわかる乱世の今こそ忠節の臣が明らかになる。身を投げて君主に報い、自分は殉国者となろう。

 

 

◎ 「古風」=出典:李白・古風(保康光選「漢詩散策」)

大雅久不作 吾衰竟誰陳 王風委蔓草 戦国多荊榛  竜虎相淡食 兵戈逮狂秦 正声何微芒 哀怨起騒人

楊馬激頽波 開流蕩無限 廃興雖万変 憲章亦已淪  自従建安来 綺麗不足珍 聖代復元古 垂衣貴清真

群才属休明 乗運共躍鱗 文質相炳煥 衆星羅秋旻  吾志在刪述 垂輝映千春 希聖如有立 絶筆於穫麟

【読み】

<大雅久しく作らず 吾衰えなば竟(ツイ)に誰か陳べなん  王風は蔓草(マンソウ)に委()てられ 戦国には荊榛(ケイシン)多し> <竜虎相淡食し 兵戈狂秦に逮(オヨ)  正声何ぞ微芒たる 哀怨騒人を起せり>

<楊馬は頽波(タイハ)を激し 流れを開き蕩として限り無し  廃興万変すと雖も 憲章亦已(スデ)に淪(ホロ)べり> <建安より来のかたは 綺麗にして珍とするに足らず  聖代元古に復し 衣を垂れて清真を貴ぶ>

<群才休明に属し 運に乗じて共に鱗を躍らす  文質相炳煥(アイヘイカン)として 衆星秋旻(ビン)に羅(ツラ)なる> <吾が志は刪述(サンジュツ)に在り 輝を垂れて千春を映(テラ)さんとす  聖を希(ネゴ)うて如()し立つこと有らば 筆を獲麟に絶たん>

【大意】

大雅のような大らかで正しい詩風がすたれてしまった。 私が老衰したら一体誰が之を復活してくれるのか。 王風の詩は地に落ち草の中に捨てられ  さらに戦国になると雑草ばかり生い茂った。 竜虎が食い合うように諸侯はあらそい、戦争は長く続いて、狂暴な秦におよんだ。正しい歌声は, かすか,なる状態になり哀しみと恨みが屈原たち騒人を生み出した。

楊雄と司馬相如は、くずれる波を立て直そうと努力したが、一旦開いた流れは広がってしまいとどまらない。 其の後も詩人の盛衰をくりかえしながら千変万化したが、正しい詩法は滅んでしまった。 建安以後の詩は、ただ綺麗なだけで珍しいよいものとはいえない。 今こそ我が唐の聖代は太古の姿にかえり、天子は衣を垂れ無為のままで天下を治め、全てすっきりとありのままを貴ぶようになった。

多くの才ある者がやすらかな明るい御代にであい、時代の動きに乗り、魚が鱗をおどらすように活躍してきた。 模様と生地が共にてりはえ、たくさんの星が秋の空に輝いている。 私の志は古代の詩の伝統を後世に伝えることだ。其の光が千年先を照らすような詩集を作ろう。 聖人の仕事にあやかって、立派に出来上がったならば、私もキリンをつかまえたところで筆を絶とう。

 

 

◎「公子行」=出典:劉希夷・公子行(PC詩詞世界・碇豊長の詩詞 抒情詩選)

天津橋下陽春水 天津橋上繁華子 馬聲廻合青雲外 人影搖動鵠g裡 鵠g清廻玉爲砂 青雲離披錦作霞

可憐楊柳傷心樹 可憐桃李斷腸花 此日遨遊邀美女 此時歌舞入娼家 娼家美女鬱金香 飛去飛來公子傍

的的珠簾白日映 娥娥玉顏紅粉粧 花際徘徊雙蛺蝶 池邊顧歩兩鴛鴦 傾國傾城漢武帝 爲雲爲雨楚襄王

古來容光人所羨 況復今日遙相見 願作輕羅著細腰 願爲明鏡分嬌面 與君相向轉相親 與君雙棲共一身

願作貞松千歳古 誰論芳槿一朝新 百年同謝西山日 千秋萬古北邙塵

【読み】

<天津橋下陽春の水 天津橋上繁華の子 馬聲廻合す青雲の外 人影搖動す鵠gの裡 鵠g清廻して玉を砂と爲し 青雲離披(リヒ)として錦を霞と作()す>

< 憐む可し楊柳傷心の樹 憐む可し桃李斷腸の花 此の日遨遊して美女を邀(ムカ)へ 此の時歌舞して娼家に入る 娼家の美女鬱金香(ウッコンコウ) 飛び去り飛び來る公子の傍(カタワラ)

<的的たる珠簾白日に映え 娥娥たる玉顏紅粉もて粧ふ  花際徘徊す雙(ナラ)ぶ蛺蝶 池邊顧歩す兩鴛鴦(エンオウ) 國を傾け城を傾く漢の武帝 雲と爲り雨と爲る楚の襄王>

<古來容光は人の羨む所 況(イワ)んや復た今日遙かに相ひ見るをや 願はくは輕羅と作りて細腰に著()かん 願はくは明鏡と爲りて嬌面を分かたん 君と相ひ向ひて轉(ウタ)た相ひ親しみ 君と雙(ナラ)び棲みて一身を共にせん>

<願はくは貞松と作りて千歳に古()りなん 誰か論ぜん芳槿(ホウキン)一朝に新たなるを 百年同に謝す西山の日 千秋萬古北邙の塵> 

【大意】

洛陽の都の天津橋の下を流れる洛水川の暖かな春水、天津橋の上を行き交う全盛を謳歌している貴公子たち。 馬の嘶きが交わり合って青空の彼方にまで伝わり、人影は緑色の川面に映って揺れ動いている。 緑色に澄んだ波は揺れ動き漂って玉を砂にしたかのようであり、青空は分断されて錦のような夕焼けである。

 ああ楊柳の木は胸に迫るような緑色であり、桃李は辛い斷腸の花のようだ。陽春のこの一日は美しい妓女を迎えて遊び、此の時の歌舞遊興は妓楼に入り込んだ。妓楼の美女は鬱金香の香りがして、貴公子の傍らをあちらこちらと漂った。

きらきらと輝く宝玉製のスダレが昼間の太陽に照り映えて、きれいな顔をした女性が紅と白粉で粧っている。花の周りをアゲハチョウが行き来しており。池の畔では二羽のつがいオシドリが左右をふり返りながら歩いている。 国を傾け城を傾けるほどの絶世の美女を愛した漢の武帝、雲雨となって神女と契りを結んだ楚の襄王。

昔より顔姿の美しさを人々は羨むが、ましてや今日は実際に遙々と会いに来たのだ。 願うことならば軽やかなうすぎぬとなって女性の細い腰にまとわりたいものだし、願わくば澄んだ鏡となって可愛い顔を写したいものだ。 あなたと向かい合うと一層親しくなり、二人一緒になって住みたいものです。

できれば葉の色を変えない貞節な松になって千年を経たいし、ムクゲのように毎朝新たに咲き夕方には凋む儚い愛情を一体誰が考えるのか。 百年と同じく人生も西方の山に沈んでいく太陽のように沈むのだし、千年の後には北山の陵墓の塵土になるのです。

 

 

◎「無門行」 =出典:王陽明「諸生夜坐」

謫居澹虚寂 渺然懐同遊 日入山氣夕 孤亭俯平疇 草際見數騎 取徑如相求 斬近識顔面 隔樹停鳴騶

投轡雁騖進 攜榼各有羞 分席夜堂坐 絳蠟清樽浮 鳴琴復散帙 壺矢交觥籌 夜弄渓上月 曉陟林間丘

村翁或招飲 洞客偕探幽 講習有眞樂 談笑無俗流 緬懐風沂興 千載相爲謀

【読み】

<謫居澹として虚寂 渺然として同遊を懐ふ  日入りて山気夕(ユウベ)なり 孤亭平疇を俯す> <草際に数騎を見る 径を取って相求むるが如し 斬く近づきて顔面を識り 樹を隔てて鳴騶(メイスウ)を停む>

<轡()を投じて雁騖(ガンボク)を進め 榼(コウ)を携へて各々羞(シュウ)あり 席を分ちて夜堂に坐せば 絳蠟(コウロウ)清樽に浮ぶ><琴を鳴らして復た帙(チツ)を散じ 壺矢(コシ)觥籌(コウチュウ)に交はる 夜は渓上の月を弄し 曉に林間の丘に陟(ノボ)る>

<村翁は或は招飲し 洞客は偕(トモ)に幽を探る 講習には真楽あり 談笑には俗流なし> <緬(ハル)かに懐ふ風沂(フウキ)の興 千載相ために謀らん>

【大意】

「諸生夜坐」……門生が尋ねてくる。酒を飲み琴を鳴らし、あたりを散策しながら講習する。時には村翁の招飲もある。

【字句解釈】

渺然=遠いさま。   平疇=平らかな畑。鳴騶=いななく馬。   轡=たづな。   雁騖=ガンとアヒル。ご馳走。   榼=たる(酒器)。羞=美味。   絳蠟=赤色の蜜ろう(脂肪)状のもの。   壺矢=投壷(矢を壷に投げ入れて敗者に罰杯を飲ませる座興)の矢。   觥籌=勝敗を争う杯とかずとり(計算具)。「壺矢交觥籌」の詩句で宴会の盛んな様子を表している。   風沂興=孔子の弟子曽点が志を聞かれ、弾じていた瑟をおいて「莫春には、春服既に成る。冠者56人、童子67人と沂に浴し、舞雩に風し、詠じて帰らん」と答えた故事による。(論語)孔子も「吾は点に与せん」といった。

 

 

◎ 「幻想」=出典:謝玄暉「暫使下都夜發新林至京邑贈西府同僚」(文選・詩篇 p395

大江日夜流 客心悲未央 徒念關山近 終知返路長 秋河曙耿耿 寒渚夜蒼蒼 引領見京室 宮雉正相望

金波麗鳷鵲 玉繩低建章 驅車鼎門外 思見昭丘陽 馳暉不可接 何況隔兩ク 風雲有鳥路 江漢限無梁

常恐鷹隼擊 時菊委嚴霜 寄言羅者 寥廓已高翔

【読み】   「暫く下都に使し 夜新林を發して京邑に至らんとす西府の同僚に贈る」

<大江は日夜に流れ 客心は悲しみ未だ央()きず 徒(イタヅラ)に關山の近きを念(オモ)ひ 終に返路の長きを知る> <秋河は曙に耿耿(カウカウ)たり 寒渚(カンショ)は夜蒼蒼たり 引き領(カヘリ)みて京室を見れば 宮雉(キュウチ)は正に相望み>

<金波は鳷鵲(シジャク)に麗()き 玉繩は建章に低()る 車を鼎門(テイモン)の外に驅()り 昭丘の陽(ミナミ)を見んことを思ふ> <馳暉(チキ)には接ぐ可からず 何ぞ況(イハ)んや兩クの隔たれるをや 風雲には鳥路有るも 江漢は限られて梁無し>

<常に恐る鷹隼(ヨウジュン)の擊ち 時菊(ジキク)の嚴霜(ゲンソウ)に委()せんことを 言を(イラ)の者に寄す 寥廓(レウクワク)に已に高く翔けたりと>

【大意】

大江の水は日夜やまずに流れて極まらず、随郡王から離れた吾が心には悲しみの尽きることがない。ここ新林からは関山が近くなったと思うにつけても、荊州への路は遠く隔たってしまったことが悲しい。 暁の秋空には天の河が薄明るく光り、大江の渚の辺りは青黒い夜の色にとざされて、見るからに寒そうである。首を延ばして京城(建康)の方をながめると、高い宮殿が互いに相対している。

月は西に傾いてに鳷鵲館に連なり、玉繩星は低くたれて建章宮のあたりに見える。われは鼎門の外に車で行き、はるかなる荊州のあたりを見たいと望んだ。 しかし矢のごとく速やかに馳せる太陽に追いつけない(日との間に距離があるように)、ここと荊州との二つの場所は遠く離れているので、見ることができない。ふき雲うかぶ空には鳥の通い路もあるが、この江水と彼の漢水とは遠く隔たり、渡るべき橋がない。

これまでは常に恐れ気づかった(秋のきびしい気の時に)鷹や隼などが猛威をふるって小鳥に襲いかかり、また菊花が霜におかされて凋み落ちるようになることを(讒言のために、謝朓自身が害せられることにたとえた)。しかし網を張り鳥を捕らえようと待ち構えている人々(悪口を言う者を指す)に告げる。鳥はもはや大空高く飛び去ってしまったのだと。

 

 

◎「春歸」=出典:杜甫・春帰

苔徑臨江竹 茅簷覆地花 別來頻甲子 歸到忽春華 倚杖看孤石 傾壺就淺沙

遠鷗浮水靜 輕燕受風斜 世路雖多梗 吾生亦有涯 此身醒復醉 乘興即爲家

【読み】

<苔徑(タイケイ)江に臨む竹 茅簷(ボウエン)地を覆う花 別來頻(シキリ)に甲子 帰り到れば忽ち春華> <杖に倚()って孤石を看 壺を傾けて淺沙に就く 遠鷗水に浮かんで靜かに 輕燕は風を受けて斜めなり> <世路梗(フサガル)こと多しと雖も 吾が生も亦涯(カギリ)有り 此の身醒めて復醉う 興に乘じて即ち家と爲さん>

【大意】

苔むしたこみちには、竹が川にかかるように茂り、茅ぶきの家の前には花が地面をおおうように咲いている。別れてからこのかた、かなりな年月が過ぎた。帰ってみると、たちまち春景色一杯だ。

杖に寄りかかって庭にある一つの石を眺めたり、浅い砂地に行って酒壷を飲んだりする。遠くの鴎は静かに水に浮かんでおり、身軽な燕は風を受けつつ斜めに飛んでいる。

世を生きてゆく道にはいろんな壁が多いものだが、我々の生涯も限りのあるものだ。酔っては醒め、醒めては酔いで、興がのればそこをそのまま自分の家とするまでだ。

 

 

◎「江上吟」=出典:李白・江上吟(PC「漢詩の世界」より)

木蘭之竝ケ棠舟 玉簫金管坐両頭 美酒樽中置千斛 載妓随波任去留 仙人有待乗黄鶴 海客無心随白鴎

屈平詞賦懸日月 楚王臺榭空山丘 興酣落筆揺五嶽 詩成笑傲凌滄洲 功名富貴若長在 漢水亦應西北流

【読み】

<木蘭の(カイ)沙棠(サトウ)の舟 玉簫(ギョクショウ)金管両頭に坐す 美酒樽中千斛(センコク)を置き妓を載せ波に随って去留に任す 仙人待つ有りて黄鶴に乗じ 海客も無心にして白鴎に随う>

<屈平の詞賦は日月を懸け 楚王の台シャは空しく山丘 興酣(タケナ)わにして筆を落とせば五岳を揺るがし 詩成って嘯傲(ショウゴウ)すれば滄洲を凌ぐ 功名富貴若()し長(トコシ)え在らば 漢水も亦た応(マサ)に西北に流るべし>

【大意】   「長江にて舟遊びの歌」

木蘭のカイに沙棠の舟に乗り、前後に縦笛と横笛の音楽隊を従える。美味しいお酒をいただいて、芸妓たちを乗せてユラユラと揺れる。かの仙人も黄鶴にまたがって空を飛ぶが、我々も邪気なく海岸でカモメと遊ぼうではないか。

屈原の『楚辞』の歌の中の太陽と月みたいに永遠でありたいが、丘の上の楚王の楼閣は何もない。宴会が盛り上がったころ山々を揺るがすような詩を作り、大らかに歌えば大洋をも凌ぐだろう。名誉や財産が永遠ならば、この漢水の流れも西北に逆流するだろう。

 

 

◎「個儂(わたし)」=出典:王次回・「個儂(わたし)(『新編漢詩読本』ー安岡正篤編・福村出版)

昨夜香迷畫燭樓 並頭雙影在銀甌 枕稜墜髻教郎綰 衣釦零珠倩姊収

酒暈暗騰烘玉頬 睡情纔上灔星眸 曉堂重見矜巖甚 囘憶狂歡似夢遊

【読み】<昨夜香迷う画燭の楼 頭を並べて双影銀甌に在り 枕稜の墜髻(ツイケイ=モトドリ)郎をしてむすばしめ衣釦(コウ=カザリ)の零珠(オチタルタマ)(ウバ=)をして収めしむ>

<酒暈(シュウン)暗にのぼって玉頬ほてり 睡情わずかに上って星眸にただよう  暁堂しばしば見る矜巌(キョウゲン=シカツメラシ)甚だしきを 狂歓を回憶すれば夢遊に似たり>

 

 

◎「 餘清 」=出典:常建・西山(セイザン)

一身爲輕舟 落日西山際 常隨去帆影 遠接長天勢 物象歸餘清 林巒分夕麗 亭亭碧流暗 日入孤霞繼

洲渚遠陰映 湖雲尚明霽 林昏楚色來 岸遠荊門閉 至夜轉清迥 蕭蕭北風氏@沙邊雁鷺泊 宿處蒹葭蔽

圓月逗前浦 孤琴又搖曳 冷然夜遂深 白露沾人袂

【読み】

<一身 軽舟と為る 落日西山(セイザン)の際  常に去帆の影に随い 遠く長天の勢に接す><物象余清に帰し 林巒(リンラン)夕麗を分つ 亭亭として碧流 日入りて孤霞(コカ)継ぐ>

<洲渚(シュウショ)遠く陰映し 湖雲尚お明霽(メイセイ) 林昏(クラ)くして楚色来り 岸遠くして荊門閉ず><夜に至りて転(ウタ)た清迥 蕭蕭として北風(ハゲ)し沙辺雁鷺(ガンロ)泊し 宿処蒹葭(ケンカ)(オオウ)う>

<円月前浦に逗(トド)まり 孤琴又た揺曳す 冷然として夜遂に深く 白露人の袂を沾(ウルオ)す>

 

 

◎「長干行」=出典:李白・長干行

妾髮初覆額 折花門前劇 郎騎竹馬來 遶床弄青梅 同居長干里 兩小無嫌猜 十四為君婦 羞顏未嘗開

低頭向暗壁 千喚不一回 十五始展眉 願同塵與灰 常存抱柱信 豈上望夫臺 十六君遠行 瞿塘艶預堆

五月不可觸 猿鳴天上哀 門前遲行跡 一一生国ロ 苔深不能掃 落葉秋風早 八月蝴蝶來 雙飛西園草

感此傷妾心 坐愁紅顏老  早晩下三巴  預將書報家  相迎不道遠  直至長風沙

【読み】

<妾が髮初めて額を覆ふとき 花を折って門前に劇(タハム)る 郎は竹馬に騎って來り 床を遶りて青梅を弄す 同じく長干の里に居り 兩つながら小(オサナ)くして嫌猜無し 十四君が婦(ツマ)と為り 羞顏未だ嘗て開かず>

<頭を低れて暗壁に向ひ 千喚に一も回らさず 十五始めて眉を展べ 願はくは塵と灰とを同にせん 常に抱柱の信を存し 豈に望夫臺に上らんや 十六君遠く行く 瞿塘艶預堆(エンヨタイ)

<五月觸るべからず 猿鳴天上に哀し 門前遲行の跡 一一国ロを生ず 苔深くして掃ふ能はず 落葉秋風早し 八月蝴蝶來り 雙び飛ぶ西園の草>

<此に感じて妾が心を傷ましめ 坐(ソゾロ)に愁ふ紅顏の老ゆるを 早晩三巴を下らん 預(アラカジ)め書を將()って家に報ぜよ 相ひ迎ふるに遠きを道()はず 直ちに至らん長風沙>

【大意】

まだ私の髪が額に垂れ下がっていた頃、花を摘んで門前に戯れ遊んでいたものでした、するとあなたは竹馬に乗ってやってきて、井桁のまわりを回っては梅を弄んだものでしたね、二人とも長干の里に住むもの同士、まだ幼くて疑いを知らぬ年頃でした。 14歳であなたの妻になり、恥ずかしさで笑顔も作れませんでした。

うなだれて壁に向かっては、千度呼ばれても返事が出来ない有様でした 15歳でやっと眉をほころばせて笑うことができるようになり、あなたに連れ添って灰になるまで共にいたいと願いました、あなたの愛は抱柱の信のように堅固で、望夫臺に上って夫の帰りを待ちわびることなど考えられもしませんでした 16歳のとき、あなたは遠くへ旅立たれました、長江の難所瞿塘、艶預堆の方へでしたね。

5月には水かさが増して近づくことも出来ないといいます、そこには猿がいて、その泣き声は天高く悲しそうに響くそうですね。 私たちの家の門前には、あなたが旅立ちかねて行きつ戻りつした足跡の上に、一つ一つコケが生えてきました、今ではすっかり大きくなって払うこともできません、早くも枯れ葉が落ちて秋風が吹いています 中秋の八月には二羽の蝶が飛んできて、西園の草の上を仲良く並んで飛び回っています。

それを見ると私の心は悲しくなり、このまま紅顏が老いていくのかと心配になります あなたはいつになったら三巴を下って帰ってくるのでしょう、そのときはあらかじめ手紙で知らせてくださいね、どんなに遠くてもお迎えにあがり、一走りで長風沙まで参りましょう

<注>尾生の信=愛する女と橋の下で会う約束をしていた尾生という男が水かさの増した橋の下で柱を抱いて死んだ故事。望夫台=遠征に行った夫を待ち続けた妻がやがて石になったという山瞿塘の艶預堆=揚子江上流、今の四川省。舟の難所だった。(艶預はさんずいをつけて下さい)三巴=現在の四川省東部。長風沙=現在の安徽省安慶の東。揚子江のほとり。 

 

 

◎「代悲白頭翁」=出典:劉庭芝「代悲白頭翁」

洛陽城東桃李花 飛來飛去落誰家 洛陽女児惜顔色 行逢落花長嘆息 今年花落顔色改 明年花開復誰在

已見松柏摧為薪 更聞桑田変成海 古人無復洛城東 今人還対落花風 年年歳歳花相似 歳歳年年人不同

寄言全盛紅顔子 応憐半死白頭翁 伊昔紅顔美少年 公子王孫芳樹下 清歌妙舞落花前 光祿池台開錦繍

将軍楼閣画神仙 一朝臥病無相識 三春行楽在誰辺 宛転蛾眉能幾時 須臾鶴髪乱如糸 但看古来歌舞地

惟有黄昏鳥雀悲

【読み】     <「白頭を悲しむ翁に代わる」>

<洛陽城東桃李の花  飛び來り飛び去って誰が家に落ちる 洛陽の女児は顔色を惜しみ 行くゆく落花に逢うて長嘆息す 今年花落ちて顔色改まり 明年花開いて復た誰か在る>

<已に見る松柏の摧(クダ)かれて薪と為るを 更に聞く桑田の変じて海と成るを 古人復た洛城の東に無く 今人還()た対す落花の風 年年歳歳花相い似たり 歳歳年年人同じからず>

<言を寄す全盛の紅顔子 応(マサ)に憐れむべし半死の白頭翁 伊れ昔紅顔の美少年 公子王孫と芳樹の下 清歌妙舞す落花の前 光祿の池台に錦繍を開き>

<将軍の楼閣に神仙を画く 一朝病に臥しては相識る無し 三春の行楽誰が辺にか在る 宛転たる蛾眉能く幾時ぞ 須臾(シュユ)にして鶴髪乱れて糸の如し 但看る古来歌舞の地 惟だ黄昏(コウコン)鳥雀の悲しむ有るのみ>

【大意】

洛陽の城東の桃や李の花は ひらひらと風に舞いどこの家に落ちていくのか。 洛陽の少女たちは容色のうつろいやすさを思い 落花の季節になって深いため息をついている。今年はもう花が落ちてゆくとともに容色も衰える 明年花が咲く時には誰がいることだろうか

松柏のような木もすでに薪となってしまうのを見る 更にその上桑田が海と変ってしまうことも聞いている。 昔のあの知り合いはもう洛陽の東には住んでいない 今ここにいる人も落花の風に逢って嘆いている。 年々咲く花は変らないが 年ごとに人は変ってしまう。

言います今を盛りの紅顔の美少年たちよ どうかこの半ば死にかけた白髪の老人を憐れんでください。 この老人もつい昔は紅顔の美少年だった 貴公子たちとともに香しい樹のもとで麗しい歌や踊りを散りゆく花の下でおこなったものだ。 高官のお屋敷の池の傍の高台では美しい光景が開かれていて 

将軍が神仙をえがいた楼閣での宴にも連なったものだ。 しかしある日病に臥してしまっては交際する知りあいもいなくなり   あの春の日の行楽はどこへ行ってしまったのか 綺麗な眉の美女もその若さ美貌を誇れるのはいつまでなのか たちまちにして糸のように乱れた白髪になることだろう 古来からの歌舞・遊興のこの地も    今はただ、たそがれに小鳥が悲しげに啼いているだけである。

 

 

 

 ◎ 「燕歌行」=出典:曹丕・「燕歌行(其一)」 

秋風蕭瑟天気涼 草木揺落露為霜 群燕辞帰雁南翊 念君客遊思斷腸 慊慊思帰恋故郷 君何淹留寄他方

賤妾煢煢守空房 憂來思君不敢忘 不覚涙下霑衣裳 援琴鳴絃發清商 短歌微吟不能長 明月皎皎照我牀

星漢西流夜未央 牽牛織女遙相望 爾獨何辜限河梁

【読み】

<秋風蕭瑟として天気涼し 草木搖落して露霜となる 羣燕辭し帰りて雁南に翔る 君が客遊を念いて思ひ腸を断つ 慊慊として帰るを思ひ故郷を戀はん 君何為れぞ淹留して佗方に寄る>

<妾煢々(ケイケイ)として空房を守り 憂ひ来りて君を思ひ敢へて忘れず 覚えず涙下りて衣裳を霑(ウルオ)すを 琴を援き絃を鳴らして清商を發するも 短歌微吟長くする能わず 明月皎皎として我が牀を照らし>

<星漢西に流れ夜未だ央きず 牽牛織女遥かに相望む 爾独り何の辜(ツミ)ありて河梁に限らる>

【大意】

秋風がさびしく吹き渡りすっかり冷え冷えとしてきました、草木は葉を落として露が霜と変っています、ツバメの群れは南へ飛び去り雁が南からやってきたのに、旅先のあなたが帰らぬのを思うと断腸の思いです。あなたはさぞ故郷を思い慕っていることでしょう、どうしていつまでも止まって帰ってはこないのですか。

私はひとりさびしく空房を守り、決してあなたのことを忘れません。 そして思わず涙が下って衣装をぬらしたりするのです  琴を弾き弦を鳴らして清音を発しても、その音に合わせて歌う歌は長く続きません、明月が明るく私の床を照らし、

天の川が西に流れて夜は尽きることがありません、牽牛織女も川を挟んで向かい合っているというのに、あなたは何の罪のために川に隔てられたままなのですか

<注>戦役で出たまま帰らぬ夫を待ちわびる歌である。曹丕は評判の悪い人物だが、人情の機微の詩句表現は一流だった。この詩は樂府の一種で、七言詩として最も古いもののひとつである。

 

 

 

 ◎ 「長歌行」=出典:陸游詩「長歌行」

人生不作安期生 醉入東海騎長鯨 猶當出作李西平 手梟逆賊清舊京 金印煌煌未入手 白髪種種來無情

成都古寺臥秋晩 落日偏傍僧窗明 豈其馬上破賊手 哦詩長作寒?鳴 興來買盡市橋酒 大車磊落堆長?

哀絲豪竹助劇飮 如鉅野受黄河傾 平時一滴不入口 意氣頓使千人驚 國讎未報壯士老 匣中寶劍夜有聲

何當凱還宴將士 三更雪壓飛狐城

【読み】【大意】〜調査中〜

 

 

 ◎「 離思 」=出典: 録陸游詩「離思」《赴太子洗馬時作詩》  

希世無高符  營道無烈心  靖端肅有命  假楫越江潭 親友贈予邁  揮淚廣川陰  撫膺解攜手  永歎結遺音

無跡有所匿  寂寞聲必沈  肆目眇不及  緬然若雙潛 南望泣玄渚  北邁涉長林  谷風拂脩薄  油雲翳高岑

亹亹孤獸騁  嚶嚶思鳥吟  感物戀堂室  離思一何深 佇立慨我歎  寤寐涕盈衿  惜無懷歸志  辛苦誰爲心

【読み】【大意】〜調査中〜

 

 

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<50字〜30字>

 

人一生所遭 有険阻 有担夷 有安流 有驚瀾 是気数自然 竟不能免 即易理也

人宜居而安焉 玩而楽焉 若趨避之 非達者之見

=出典:『言志後録』(佐藤一斎)

【読み】  <人の一生遭ふ所には、険阻有り、担夷有り、安流有り、驚瀾有り。是れ気数の自然にして、竟に免るる能はず。即ち易理なり。人は宜しく居つて安んじ、玩んで楽むべし。若し之を趨避せんとするは、達者の見に非ず。>※担夷=平らかなること。

 

不知香積寺 数里入雲峰 古木無人径 深山何処鐘 泉声咽危石 日色冷青松 薄暮空潭曲 安禅制毒竜

=出典:王維・過香積寺

【読み】 <香積寺を知らずして数里雲峰に入る 古木人径無く深山何処の鐘 泉声危石に咽び日色青松に冷かなり 薄暮空潭の曲(ホトリ)安禅毒竜を制す>

【大意】 香積寺を知っていたわけではないが、ふらりと山の方へ出かけた。道を見失うような古木が茂り、どこからかわからぬ鐘の音が山の峰から聞こえる。切り立った岩のあいだを流れる泉水の音、日光はさわやかに松の緑に冷ややかである。薄暗がりのふちの片隅に、ひっそりと座禅の僧が心頭滅却の境地で座っていた。

 

清晨入古寺 初日照高林 曲径通幽処 禅房花木深 山光悦鳥性 潭影空人心 万籟此倶寂 惟聞鐘磬音

=出典:常建・破山寺後禅院

【読み】 <清晨古寺に入れば 初日高林を照らす 曲径幽処に通じ 禅房花木深し 山光鳥性を悦ばしめ 潭影人心を空しくす 万籟此に倶に寂たり 惟だ鐘磬の音を聞くのみ>  

【大意】 さわやかな早朝、古い寺の境内に入ると、朝の陽光が高い梢を照らしている。竹の小径は、奥深い静かな場所に通じ、禅房は、花咲く木々に囲まれている。山の光は鳥の心を喜ばせ、淵に映る影は人の心を清らかにしてくれる。 すべての物音はここで寂としてやみ、ただ寺の鐘声の響きだけだ。

 

宛轉一臂斷 流落二喬輕 覆水已無及 通家如有情 歸來粧粉暗 啼罷涙痕清 莫道紅裙怯 官家盛甲兵

=出典:明/徐渭・宛轉詞

【読み】 <宛轉一臂(イッピ)斷ち 流落二喬(ニケウ)輕し 覆水已(スデ)に及ぶ無く 通家情有るが如し 歸來粧粉暗く 啼き罷めば涙痕清し 道()ふ莫れ紅裙(コウクン)怯なりと 官家甲兵を盛んにす>

【大意】くるりと父は片腕を切り落とされ、おちぶれてさまよう美しい姉妹の薄命。断たれた仲はどうしようもないが、昔からのつきあいがあるのでどうして平気でいられよう。帰った人の化粧は汚れても、泣き止んだ涙のあとは清い。紅い裙の美人がおびえていると言わないでおくれ、おかみは戦争の準備に余念がないのだから。(めぐり変化して哀しいことを歌う。裙=すそ。)

 

横塘渡 郎西來 妾東去 感郎千金顧 妾家住紅橋 朱門十字路 認取妾夷花 莫過楊柳樹

=出典:明/袁宏道・横塘渡

【読み】 <横塘渡 郎は西より來り 妾は東に去る 郎の千金の顧に感ず 妾が家は紅橋に住す 朱門十字路 妾夷の花を認取して 楊柳の樹を過ぐる莫れ>

【大意】 横塘の渡し、あなたは西から来、私は東へ去ろうとしたが、あなたの好意が嬉しい。私は紅い橋のたもとに住んでいるから、楊柳の樹を通り過ぎずに寄って下さい。(横塘の渡し場で誘う。)

 

鶯花茂而山濃谷艷 総是乾坤之幻境 水木落而石痩崕枯 纔見天地之真吾   =出典:菜根譚

【読み】<鴬花茂くして山濃(コマ)やかに谷艶(エン)なる、総てこれ乾坤の幻境なり。 水木落ちて石痩せ崕(ガケ)枯る、わずかに天地の真吾を見る>  

【大意】鶯が鳴き、花が咲き乱れ、山も谷も活き活きとするが、これは大自然の仮の姿である。谷の水は枯れ、木々は葉を落とし、石の苔は消え、川岸の木々も枯れ果てた状態に大自然の真の姿が見える。 (人間も現役で働いているのは仮の姿で、老後こそ人間の本当の姿ではないのだろうか。人生は老後のためにあると言えるのが達人なのだ)

 

蔵巧於拙 用晦而明 寓清于濁 以屈為伸眞渉世之 一壷蔵身 之三窟也   =出典:菜根譚

【読み】 <巧を拙に蔵(カク)し、晦(カイ)を用いて明とし、清を濁に寓し、屈を以って伸と為す。真に世を渉(ワタ)るの一壷にして、身を蔵するの三窟なり>

【大意】 優れた才能がありながら、つまらない人間のように振る舞い、聡明さを愚か者のように見せて腰を低くしているようで実は伸び伸びとしている。このような世渡り術が救命胴衣となり、身を隠す3つの隠れ家となる。(切れ者は警戒され、愚鈍は無防備となり、自慢と派手は下衆な連中の特徴。本当に知恵があれば擬態で生きるのが安全である。処世術の極意。*狡兎三窟=ズル賢いウサギは3つの隠れ家を持つという喩え。)

 

 

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<七言・28字>

 

峨眉山月半輪秋  影入平羌江水流  夜発清渓向三峡  思君不見下渝州   =出典:李白・峨眉山月歌 

【読み】<峨眉山月半輪の秋,影は平羌江水に入りて流る 夜清溪を發して三峽に向ひ,君を思へども見ず渝州に下る>

◎峨眉山には半月が出ている秋(の宵) 月影は平羌江に沈んで江水は流れる 夜に清渓の駅を発って三峽に向かう 君を思うが会わないで渝州へ下っていく。

 

謂城朝雨浥軽塵  客舎青々柳色新  勧君更盡一杯酒  西出陽関無故人   =出典:王維・送元ニ使安西  

【読み】<渭城の朝雨 軽塵を潤おし 客舎青々柳色新たなり 君に勧む更に尽せ一杯の酒 西のかた陽関を出ずれば 故人無からん (元二の安西に使いするを送る)> 

◎朝から渭城に降っている雨が黄塵をしっとりうるおしている。別れの宴をはる旅舎の柳の色は一際緑を増している。遠く旅立つ君よ、さあ、もう一杯杯を重ねたまえ。ここから西、陽関を出れば知友もいないだろうから。

 

月落烏啼霜満天 江楓漁火對愁眠 姑蘇城外寒山寺 夜半鐘聲到客船    =出典:張継・楓橋夜泊

【読み】<月落ちて烏啼く霜天に満つ 江楓漁火愁眠に對う 姑蘇城外寒山寺 夜半の鐘聲き客船に到る>

◎月が沈み夜明け直前に烏が啼き、霜が一面におりており不吉である。川の橋のそばに漁り火をつけた船が見える。夜中に姑蘇の城の外にある寒山寺の鐘が聞こえ、愁いながら寝た。この朝船に乗りこの地を離れた。

 

遠上寒山石径斜 白雲生処有人家 停車坐愛楓林晩霜葉紅於二月花     =出典:杜牧・山行

【読み】<遠く寒山に上れば石径斜めなり 白雲生ずる処人家有り 車を停めて坐(ソゾロ)に愛す楓林の晩(クレ)霜葉は二月の花よりも紅なり> 

◎遠く寂しい山に登っていくと、斜めの石の小道が続いている。はるか上の白い雲が生じるところには人家がある。車を止めて、そぞろに夕暮れの楓の林を愛でてながめた。霜に紅葉した楓の葉は二月に咲く花にくらべて、いっそう赤かった。

 

獨上江樓思渺然 月光如水水連天 同来翫月人何處 風景依稀似去年   =出典:趙嘏・江樓書感

【読み】<独り江樓にのぼれば思い渺然 月光水の如く水天に連なる ともに来って月を翫(モテアソ)びし人いずれの処ぞ 風景は依稀として去年に似たり>

◎只独り江のほとりの桜にのぼって眺めていると、思い出は尽きない。眼前、月光は水の如く冴え、江水は果てしなくひろがる。あの日、共に月見をした人は今いずこにいるのだろう。風景はさながら去年と変わりはないのに。

 

問余何意栖(棲)碧山笑而不答心自閑 桃花流水窅然去 別有天地非人間   =出典:李白・山中答俗人

【読み】<余に問う何の意(ココロ)にて碧山に住むと 笑うて答えず心自ずから閑かなり 桃花流水窅然(ヨウゼン)として去り 別に天地の人間に非る有り>

◎ある俗人が私に、何のためにこんな樹ばかり茂った山の中に住んでいるのかとたずねた。答えずに冷笑しただけであったが、私の心はそんなことにかかわりなく静かなものだ。ごらんなさい、のんびりとしたあの桃花流水を。ここは俗物の住む世間とはちがった別天地なのだ。

 

故人西辭黄鶴樓 煙花三月下揚州 孤帆遠影碧空盡 惟見長江天際流   =出典:李白・黄鶴樓送孟浩然之廣陵

【読み】<故人西のかた黄鶴樓を辭し 煙花三月揚州に下る。孤帆の遠影碧空に盡き 惟だ見る長江の天際に流るるを。>

◎古い知人(孟浩然)が、西方にある黄鶴樓を辞去し、春霞がたって美しい三月に、下流の揚州へ下って行く。ひとつだけの帆掛け船の姿が遙か彼方の青空に消えてしまい、天の際まで流れる長江がただ見えるだけだ。

 

瀟湘何事等閑回  水碧沙明両岸苔  二十五弦弾夜月 不勝清怨却飛来   =出典:銭起・帰雁

【読み】<瀟湘より何事ぞ等閑に回る 水は碧に沙(スナ)は明らかに両岸苔むす二十五弦夜月に弾ぜば 清怨に勝えずして かえって飛び来たらん>  

◎雁よ美しい瀟湘を等閑(なおざり)にしてなぜ帰るのですか。水は青々とし砂浜は明るく両岸は苔むしているのに。湘水の女神が二十五絃の琴を月夜に奏でるので、清らかな怨みの調べに堪えかね帰り飛ぶのです。

 

朝辞白帝彩雲間 千里江陵一日還 両岸猿声啼不住 軽舟巳過萬重山      =出典:李 白・早発白帝城

【読み】<朝に辞す白帝彩雲の間 千里の江陵一日にして還る 両岸の猿声啼いて住()まず 軽舟己に過ぐ万重の山>

◎朝焼け雲に映し出された白帝城に別れをつげて三峡を下り、千里離れた江陵に1日で着いた。途中では両岸の猿声が絶え間なく聞こえていたが、私の乗った小舟は幾重にも重なった山々の間を通りすぎていった。

 

巴陵一望洞庭秋 日見孤峰水上浮 聞道神仙不可接 心隨湖水共悠悠      =出典:張説・送梁六

【読み】<巴陵一望洞庭の秋 日に見る孤峰の水上に浮ぶを 聞道(キクナラク)神仙接すべからずと 心は湖水に隨って共に悠々>

◎巴陵(洞庭湖の東畔)から見渡すと洞庭湖は早や秋で、湖中の孤峰(君山)が浮かんで見える。この山の神仙には近寄れないそうだが、君にもいつ又会えるやら。君を見送る我が心は、果てしなく広がる湖水と共にたゆたう。

 

盧山煙雨浙江潮 未到千般恨不消 到得帰来無別事 盧山烟雨浙江潮      =出典:蘇軾の詩句

【読み】<盧山は煙雨浙江は潮 未だ到らずば千般の恨()を消せず 到り得帰り来れば別事なし盧山は烟雨浙江は潮>

◎誰もが一度は行ってみたい盧山や浙江は、行かなければ悔いるようだが、実際に行ってみると得るものもなく行かなくても同じことだった。悟ったからといって何の変わりはないものだ。

 

囘首七十有餘年 人間是非飽看破 往來跡幽深夜雪 一炷線香古匆下       =出典:良寛・草庵雪夜作

【読み】<首(コウベ)を囘(メグラセ)ば七十有餘年 人間の是非看破に飽く 往來の跡幽(カス)かなり深夜の雪 一炷の線香古匆の下>

◎七十余年をふりかえれば、この人の世の是非善悪を見破り道理を説くことには、飽きてしまった。行き来する道の足跡は、深夜に降る雪のために幽かになって一つの線香の火が古びた窓の下にある。(それは、わたし・良寛の生命の微かなともしびでもある)

 

萬岳雲晴歸一眸 千年紺碧大摩周 總忘苦樂人間事 湖上閑吟極勝游      =出典: 永平寺泰禅・摩周湖第一展望台文学碑

【読み】<萬岳雲晴れて一眸に帰す 千年紺碧の大摩周  総てを忘れる苦楽の人間事 湖上閑を吟じて勝遊を極める>

 

笠置山寒貉一邱 延元陵古水東流 南朝無限傷心涙 灑向楠公墓畔秋      =出典:楠公墓前の漢詩

【読み】<笠置山は寒貉一邱 延元陵は古びて水東に流る 南朝限り無し傷心の涙 麗(ソソ)いで向かう楠公墓畔の秋>

 

日照香爐生紫煙 遙看瀑布挂長川 飛流直下三千尺 疑是銀河落九天      =出典:李白・望廬山瀑布

【読み】<「廬山の瀑布を望む」<日は香爐を照らし紫煙生ず、遙かに看る瀑布の長川に挂くるを。飛流直下三千尺、疑ふらくは是れ銀河の九天より落つるかと>

◎「廬山の瀑布を望む」太陽の光が香炉峰を照らして紫色がかった雲煙が湧き起こり、遥か眺めやると、長い川に滝が掛かっているかのようである。飛ぶような滝の流れが真っ直ぐに三千尺おちてきて、まるで銀河が天の最も高いところから落ちてきたのかと疑った。

 

荊棘林中線路通 等閑踏破太虚空 頓超明月清風境 安住菅湯爐炭中      =出典:『槐安国語』。第3句第4句『禅林語句抄』

【読み】<〜〜 〜〜。頓に明月清風の境を超え、菅湯爐炭の中に安住す。>

 

翻手作雲覆手雨 紛紛輕薄何須數 君不見管鮑貧時交 此道今人棄如土      =出典:杜甫・貧交行

【読み】<手を翻(ヒルガヘ)せば雲と作()り 手を覆(クツガヘ)せば雨となる。紛紛たる輕薄 何ぞ數ふるを須(モチ)ゐん。君見ずや管鮑(カンポウ)貧時の交はりを。此の道今人(コンジン)棄つること土の如し。>

◎貧交行:貧しい時代の交友の歌。=情況に合わせて、態度をころころと変える友人たちのさま。入り乱れる数多くの軽薄なさまは数える必要もない。ご存じでしょう、管仲と鮑叔牙の貧しい時代の交わりを。このような管鮑の交友の精神は、現在の人々は土くれのように棄ててしまった。

 

 

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  <五言・20字>

 

春眠不覚暁 処処聞啼鳥 夜来風雨声 花落知多少      =出典:孟浩然・春暁詩

【読み】<春眠暁を覚えず 処処啼鳥を聞く 夜来風雨の声 花落つること知る多少>

◎春の心地よい眠りのため、明け方がいつ来たのがわからない。あちらこちらで鳥が鳴くのが聞こえる。昨夜は雨や風の音が聞こえたが、どれだけの花が散ったのかわからない。

 

千山鳥飛絶 萬徑人蹤滅 孤舟蓑笠翁 獨釣寒江雪      =出典:柳宗元・江雪

【読み】<千山鳥飛ぶこと絶え 萬径人蹤滅(ジンショウキ)ゆ孤舟蓑笠(サリュウ)の翁 独り釣る寒江の雪>

◎両岸に絶壁が迫り鳥影もなく、ましてや人跡もとだえている。その谷間の寒江に、蓑笠をつけた老人がたった独り小舟で釣りをしている。

 

松下問童子 言師採薬去 只在此山中 雲深不知處      =出典:賈島・尋隠者不遇

【読み】<松下童子に問う 言う師は薬を採りに去()けりと只だこの山中に在らん 雲深くして処を知らず>

◎作者は既知の隠者を訪問したのではなく、誰かに聞いたところの隠者を訪ねていったのであろう。けれども会えなかった。最後まで童子の答えとしても通じる。

 

獨坐幽篁裏 弾琴復長嘯 深林人不知 明月來相照      =出典:王維・竹里館

【読み】<独り幽篁の裏に坐し 琴を弾じ復()た長嘯す 深林人知らず 明月來たりて相照らす>

◎誰もたずねて来ない竹やぶの奥の離れで、気儘に爪びいたり歌ったりするのは楽しい。相手になってくれるのはお月様だけ。

 

偶来松樹下 高枕石頭眠 山中無暦日 寒尽不知年      =出典:太上隠者・答人

【読み】<偶(タマ)たま松樹の下に来り 枕を高うして石頭に眠る山中暦日なし 寒尽くるも年を知らず>

◎通りがかりの松の樹の下 石を枕に眠る 山の中には暦もなく 月日のたつのも忘れている。(陸游詩の「野人暦日なし、鳥啼いて四時を知る・と同意)

 

白日依山盡 黄河入海流 欲窮千里目 更上一層楼      =出典:王之渙・登鸛鵲楼

【読み】<白日山に依りて盡き 黄河海に入りて流る 千里の目を窮めんと欲し 更に上る一層の樓>

◎白昼の空は山の端に尽き 黄河は海の中まで流る 大地の果てを見渡したくて 上の階へとまた登りゆく。

 

空山不見人 但聞人語響 返影入深林 復照青苔上       =出典:王維・鹿柴

【読み】<空山人見えず 但だに聞く人語の響くを 返影 深林に入り 復た照らす青苔の上を>

◎山中に人の姿はみえず ただ人の話し声だけが響いてくる 夕陽が林の深くまで差し込み 青苔を照らしている。

 

衆鳥高飛尽 孤雲独去閑 相看両不厭 只有敬亭山      =出典:李白・独坐敬亭山

【読み】<衆鳥高く飛びて尽き孤雲独り去つて閑かなり 相看て両に厭はざるは只だ敬亭山有るのみ>

◎飛ぶ鳥の影、空高く消え 浮き雲ひとつ長閑(のどか)に流る たがいに向き合い飽きないものは私がためには敬亭山のみ

 

長信多春草 愁中次第生 君王行不到 漸與玉階平      =出典:明・謝肇淛・春怨

【読み】<長信春草多く 愁中次第に生ず 君王行き到らず 漸く玉階と平らかなり>

◎長信宮には若草が多くなり、それが愁いの空気の中でもどんどんのびる。天子がおいでにならないから、段々玉で造った階段と同じほどの高さになってしまう。

 

明月憐團扇 西風怯綺羅 低垂雲母帳 不忍見銀河      =出典:明・謝肇淛・秋怨

【読み】<明月団扇を憐れみ 西風綺羅怯たり 低く雲母の帳を垂れて 銀河を見るに忍びず>(春怨と同じく、捨てられた女の悲しみを詠っている)

◎明月は団扇を憐れみ、秋風を軽く美しい絹の着物をまとった女が恐れる。雲母で作ったとばりを低くおろして銀河を見るのに忍びない。

 

吾心似秋月 碧漂清皎潔 無物堪比倫 教我如何説      =出典:禅語

【読み】<吾が心秋月に似たり 碧潭清うして皎潔たり 物の比倫に堪えたる無し 我をして如何が説かしめん>

◎私達の心は秋の明月のように円満無欠であり、緑色の深淵に照り映えて清く輝いている。これはあくまでたとえであって結局は何物にも比べることは出来ず、また言葉で説明し尽くすことは出来ない。 人みな仏になる性質をもっていることを、月にたとえている禅語です。

 

本来無東西  何処有南北 迷故三界城 悟故十方空      =出典:弘法大師空海・四句の偈

【読み】<迷うが故に三界は城、悟るが故に十方は空、本来東西は無し、何処にか南北有らん=めいこさんがいじょう ごこじっぽうくう ほんらいむとうざいがしょうなんぼく>

◎迷うから、そこに壁があるように感じる。迷わなければ、障壁はない。そもそも、本来、東と西の区別は無い。だとすると、南と北の区別も無い。要は、自分の気持ちの持ち方一つである。

 

江碧鳥逾白 山青花欲燃 今春看又過 何日是帰年      =出典:杜甫・絶句

【読み】<江(コウ)(ミドリ)にして鳥逾々(イヨイヨ)白く 山青くして花然えんと欲す 今春看()て又過ぐ 何れの日か是れ帰年ならん>

 

春水滿四澤 夏雲多奇峰 秋月揚明輝 冬嶺秀孤松      =出典:陶淵明・四時歌

【読み】<春水四澤に滿ち 夏雲奇峰に多し。秋月明輝を揚げ 冬嶺孤松を秀づ>

◎春の水が四方の沼沢に満ちて、夏の雲は奇峰からたくさん湧き上がってくる。秋の月は輝かしさを発揚し、冬の山の嶺々は一本だけある松の木をひときわ高く聳えさせている。

 

天下傷心處 勞勞送客亭 春風知別苦 不遣柳條障      =出典:李白・勞勞亭

【読み】<天下 心を傷ましむるの處  勞勞 客を送るの亭  春風別れの苦なるを知り 柳條をして青からしめず>

◎(現在の南京にある労労亭は歴史上)国中の心をいたましめる処だ。旅をする人を見送り(迎えてきた)宿である。春風は多くの別離の苦しみを記憶している。(別れの哀しみがあまりにも深いので)柳を青くさせないでいる。

 

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 <19字>

 

林間松韻 石上泉聲  静裡聴來 識天地自然鳴佩      =出典:菜根譚

【読み】<林間の松韻、石上の泉声 静裡に聴き来たりて、天地自然の鳴佩を識る>

◎林の中で聞こえてくる、松風の響きや岩の間を流れ聞こえてくる泉の音()は、心静かに聞き入ってみると、天地自然の素晴らしい音楽である。

 

 <17字>

 

山之高峻処無木 而谿谷廻環 則草木叢生      =出典:菜根譚

【読み】<山の高峻なる処には木なし、而して谿谷廻環すれば、草木叢生す>

 

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<七言・14字>

 

疎影斜水清淺 暗香浮動月黄昏      =出典:林逋・ 山園小梅

【読み】<疎影は斜 水は清淺  暗香 浮動し 月 黄昏(タソガレ)

◎まばらな枝は斜めにのびて、水は浅く清く、かすかな香りは漂い来て、月はたそがれの中

 

素志與白雲同悠 高情與青松共爽      =出典:王融・廣弘明集

【読み】<素志は白雲と同じく悠に 高情は青松と共に爽かなり>

◎心志はかの白雲の如く悠々 性情は青松の如くさわやかである。

 

閑雲野鶴心同靜 瓶水爐香意自如      =出典:張廷琢・〜

【読み】<閑雲野鶴と心同じく靜に、瓶水(ヘイスイ)爐香意自如(イジジョ)

◎静かな雲、野に棲む鶴、我が心は同じく静かで、花瓶の水や爐の香り、心ものびのびする。

 

静中見得天機妙 閑裏回観世路難      =出典:載復古

【読み】<静中見得たり天機妙 閑裏回観す世路の難>

◎静中に玄妙な天のはたらきをさとり、閑の中に世路の艱難をつくずくと知る。

 

夕陽千樹鳥聲寂 涼月一庭花影深      =出典:李絣

【読み】<夕陽(セキヨウ)千樹鳥聲寂(セキ)たり 涼月一庭花影深し>

◎多くの木にみてる夕日の影に鳴く鳥の声はさびしく、庭一杯にさす月の影は涼しく花影は深い

 

桃花暮雨烟中閤 燕子春風月下樓   =出典:毛氏

【読み】<桃花暮雨烟中の閤(カク) 燕子春風月下の樓> 

◎桃の花に降る夕暮れの雨は烟中に見ゆる閤で、燕が春風に飛んで此処は最早月が光をさしている。

 

一枕鳥聲残夢裡 半窓花影獨吟中   =出典:陸游

【読み】<一枕(イッチン)の鳥声残夢の裡(ウチ) 半窓の花影獨吟の中(ウチ)> 

◎暁の鳥の声は夢まだ醒めぬ枕にひびき、獨吟する所には窓半分に花影がうつっている。

 

竹影掃階塵不動  月穿漂底水無痕   =出典:菜根譚

【読み】<竹影階を掃って塵動かず  月輪沼を穿って水痕(アト)無し> 

◎竹の影がきばはしをはらっても塵は立たず、月輪が沼に映るが水面には跡を留めない。(俗念妄想を絶した境地)

 

春山無伴獨相求 伐木丁丁山更幽   =出典:杜甫・題張氏隠居

【読み】<春山伴(トモ)無く独り相求む 伐木丁丁(トウトウ)山更に幽(カス)かなり> 

◎つれもなく一人で春の山を歩いていると木を伐る音がトーントーンと響き、山の静けさが一段と深まる。

 

青山緑水元依奮 明月清風共一家   =出典:五灯会元

【読み】<青山緑水元(モト)奮に依る 明月清風共に一家> 

◎悟ってみれば青山緑水も元通り変わりないし明月清風も昔どおりである。悟っても昔どおり何も変わりない。

 

風吹不動天邊月 雪壓難摧礀底松   =出典:禅林句集(禅語字彙)

【読み】<風吹けども動かず天邊の月 雪壓せども摧(クダ)け難し礀底の松> 

◎大空の月は風に動かず、谷間の松は雪に折られぬ(不動の意志)

 

水自竹邊流出冷 風従花裏過来香   =出典:禅語

◎竹のそばを流れ出る水は自然に冷たく、花々の間を通り過ぎる風は花の香りを放っている。夫々に影響し合う人生。

 

壽似春山千載秀 福如滄海萬年清   =出典:〜 

【読み】<壽は春山に似て千載秀いで、福は滄海の如く萬年清らかなり>

◎春山のように穏やかに千年も長寿をして、万年もかわらぬ大海原のような清らかな福を授かろう。「壽山福海無窮榮達」と続く。

 

得閑獨坐翻書巻 有客相過慰寂寥   =出典:劉伯淵 

【読み】<閑を得て獨坐 書巻を翻(ヒルガエ)し、客有り相過(ヨギ)り寂寥を慰む>

◎ 閑暇あれば獨坐して書を読み、客があって訪問してくれて寂しさを慰めてくれる。

 

一聲老鶴月中聴 萬里秋濤天外来   =出典:朱存理 

【読み】<一聲の老鶴 月中に聴き、萬里の秋濤天外より来たる>

◎老鶴が鳴いた一聲は月中に向って聞かれ、萬里の遠方より来る秋の濤は天外からする。

 

満地緑陰新雨後 一簾香霧午風初  (雄峰先生は最後の三字を「午後風」と表現)  =出典:林温

【読み】<満地の緑陰新雨の後 一簾の香霧午風(ゴフウ)の初> 

◎地上一面の至る所の新緑は、雨降った後のことで、すだれ半面にこもる香烟は午後の風吹く頃である。

 

春前柳葉銜春翠 雪裏梅花帯雪妍   =出典:王勃 

【読み】<春前の柳葉春を銜(フク)みて翠に、雪裏の梅花雪を帯びて妍なり>

◎まだ春を迎えぬ柳の葉は春まえから翠を帯び、雪中の梅花は雪をつけて一しお美しい。

 

池魚自樂誰知我 林鳥相忘不避人   =出典:戴鵬  

【読み】<池魚自ら樂しむ 誰か我を知らん、林鳥相忘れて人を避けず>

◎池の中の魚は自ら相樂しむ 誰か我を知ろう決して知らない、林の中の鳥は相忘れて人さへよけて逃げずに鳴く。

 

晴樹遠浮青嶂出 春江暁帯白雲流   =出典:王蒙

【読み】<晴樹遠く青嶂を浮かべて出で、春江暁に白雲を帯びて流る。>

◎晴天の遠方の樹は青々たる山を浮かべ出し、春の川の水は夜明けに白雲の影を帯びて流るるのである。 ※晴樹=晴天の遠方の樹。青嶂=青々たる山。

 

三更月照幽窓外松竹青々碧欲流   =出典:禅林句集  

【読み】<三更月は照らす幽窓の外、松竹青々として碧流れんと欲す>

 

庭前有月松無影 欄外無風竹有聲   =出典:事文類聚

 

心身脱落唯弌實 千態萬状龍弄玉   =出典:『訳註良寛詩集』または『禅林名句辞典』 *「身心脱落只貞實〜〜」とも表現される。

【読み】<心身脱落唯弌實 千態萬状龍玉を弄ぶ> 

◎心身脱落唯弌實=まことの自己を知ること。 千態萬状龍弄玉=竜が宝珠をもてあそぶように、色々な角度から正法を説

 

道通天地有形外 思入風雲變態中   =出典:程明道  

【読み】<道は通ず天地有形の外 思いは入る風雲変態の中>

◎道というものは天地の間のいかなるもの(有形無形を問わず)にも通じていて、人間の思考は風や雲のように変化する事象の中にまで浸み通るものである。

 

栄枯事過都成夢 憂喜心忘便是禅    =出典:禅語(禅林句集) 

【読み】<栄枯の事、過ぐれば都()べて夢と成る。憂喜心に忘れぬるは、便(スナ)はち是禅>

◎この世の出来事はすべて夢のようなものです。悟ったと思うことを捨て忘れられない感情はそのままにして、その時々を正直に生きることが大切です。

 

春入千林處々花 秋沈満水家々月    =出典:禅林句集(葛藤集) 

【読み】<春は千林に入る処々の花、秋は万水に沈む家々の月>

◎春は林や野に花が咲き、秋はどこの家にも月は輝き水面に月は宿ります。森羅万象すべてに仏の世界が行き渡り、仏性は人々に宿っています。


楓葉欲残看愈好 梅花未動意先香    =出典:宋/陸遊詩「初冬」
【読み】<楓葉 残せんと欲す 看て愈々好く 梅花 未だ動かず 意先ず香ばし>

◎紅葉した楓の散り残りを見るのは一興であるし、梅の花は未だ開かないが、蕾のうちから何となく芳しいのです。

萬事莫如花下酔 百年渾似夢中狂    =出典:不明
【読み】<万事花下に酔うに如くはなく、百年渾て夢中に狂するに似たり>

◎何事も花の下で酔うにこしたことはなく、人生は全て 夢の中に狂うのと似たようなものだ。


白雲盡處是青山 行人更在青山外     花邊好鳥春風酒 松下清琴夜月香     天寒日短烏鴉啼 江空野濶黄雲低

 

層舡春近幡龍起 九澤雲閑獨鶴飛     雲動乾坤三祝寿 春生雨露九霞様

 

 

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< 13字 >

 

須定雲止水中 有鳶飛魚躍気象   =出典:菜根譚  【読み】<すべからく定雲止水の中に、鳶飛び魚躍るの気象あるべし>

◎動かぬ雲の間を鳶が舞い、静かな水の中に魚が躍るように、静と動がひとつに融け合った境地こそ望ましいものだ。

 

 

< 11字 >

 

潔常自汚出 明毎従晦生也   =出典:菜根譚   【読み】< 潔きは常に汚れより出で、明るきは毎(ツネ)に晦(ミソカ)より生ずるを>

 

 

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 <五言・10字>

 

幽禽聲自楽 流水意長閑      =出典:韓除轣  【読み】<幽禽聲自ら楽しみ  流水意長閑なり>

◎名知らぬ鳥が楽しげにさえずり、流れる水はあくまでものどかである。

 

世事雲千變 浮生夢一場   =出典:王庭筠  【読み】<世事雲千變 浮生(ショウ)夢一場(ジョウ)> 

◎世の万事はすべて変化多くして雲に似ている、はかなき人生は一場の夢を見たに過ぎない。

 

山花迎客笑 谷鳥避人啼   =出典:盧之翰  【読み】<山花客を迎へて笑ひ 谷鳥人を避けて啼く>

◎山中の花は笑顔で客を迎えるように美しく咲き、谷間の鳥は姿を隠して囀る。

 

啼鳥雲山静 落花渓水香   =出典:徐貴  

◎雲のたなびく山に鳥がないて静かに、谷川の水には落花が浮かんで流れて香しい。

 

青山元不動  白雲自去来   =出典:虚堂録 【読み】<青山元より不動にして、白雲自ずから去来す>

◎青くそびえる山はもとから不動であり、白雲はその周囲を無心に去来している。

 

鶴舞千年樹 亀游萬歳池   =賀詞 「鶴舞千年樹 亀潜万尋淵」もある 

【読み】<鶴は舞う千年の樹 龜は游ぶ萬歳の池(亀は潜む万尋の淵)>

 

昨夜一声雁 清風萬里秋   =出典:虚堂録  【読み】<昨夜一声の雁 清風萬里の秋>

◎昨夜来の雁がねの声を聞かなかったらどうして遠い河口に秋が来たことを知ったであろうか。

 

心清無別()事 静極是眞源   =出典:斯植 【読み】<心清く外事(ガイジ)無く、静極まって是れ眞源>

◎ 心は清く外に思わないから何事も起こらない、静かさはこの上もないから此処で極意の処である。

 

水深魚極楽 林茂鳥知帰   =出典:杜甫「秋野」 【読み】<水深く魚楽しみを極め、林茂り鳥帰るを知る>

◎ 水は深くして魚はこの上もなく楽しみ、林は茂りて鳥は塒(ネグラ)に帰ることを忘れない。

 

真味只是淡 至人只是常   =出典:菜根譚 【読み】<真味はただこれ淡 至人はただこれ常>

 

十方無虚空 大地無寸土 =出典:法句抄(道元眼蔵)   江上之清風 山間之明月 =出典:赤壁賦

 

村静鳥聲樂 山低雁影遥     枕上乾坤静 夢中歳月長     春逐鳥聲開   麗日散光華

 

新鶯憶葉囀 新燕向窓飛      泉聲帯月静 松影入窓間      百年書法裏 萬事酒盃中

 

 

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<9文字>

 

心和気平者 百福自集      =出典:菜根譚  【読み】<心和(ヤワラ)ぎ、気平(タイ)らかなる者は、百福自ずから集まる>

◎柔和で安定した心の持ち主は、多くの幸福が自然に集まってくる。前句「性燥(カワ)き心粗なる者は一事も成すこと無し」(無味乾燥で粗野な心の持ち主は、一つとして物事を成し遂げることはない。)

 

更潜礎石下 浮上小身

 

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<8文字>

 

千萬里 日夜一孤舟   =出典:中国孔子 『滄溟千萬里 日夜一孤舟』が元

 

知足常楽 能忍自安   =出典:釈尊の遺教経 【読み】<足りたるを知れば常に楽しく、よく忍べば自ら安らぐ>

◎不満不足は欲から生じるもの、現状に満足すれば楽しく暮らせる。不足を辛抱忍耐することにより平穏な生き方ができる。

 

垂絲千尺 不釣凡鱗   =出典:虚堂和尚語録  ◎千尺もある深い釣り糸は、雑魚は釣らない

 

四季平安 百幸如意   =出典: “四季平安”は中国のお祝い言葉。賀詞には、恭賀新嬉、恭喜恭喜、五福臨門、吉祥如意、百幸如意などたくさんあり。

 

心外無法 満目青山   =出典:禅語  ◎こころの外に法は無し。見よ眼前に広がる雄大な山々を

 

積善之家 必有餘慶  =出典:易経         能言能行 国之宝也

 

 

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<7文字>

 

白雲千載空悠々      =出典:崔 障香/黄鶴樓   【読み】<白雲千載空(ムナ)しく悠悠> ◎白い雲が千年の後の今も変わらずに悠々と流れてゆく。

 

萬里無雲孤月圓   =出典:虚堂録  【読み】<萬里雲なく孤月圓(マドカ)なり> ◎見渡す限り雲ひとつなく、円い月が照っている。

 

人間萬事塞翁馬   =出典:淮南子 【読み】<人間萬事塞翁の馬> ◎人間の幸不幸は図り知ることができないから、禍も悲しむにあたらず幸いも手放しで喜べない。(国境の塞近くに住む老人の飼い馬をめぐる禍福の因縁話)

 

栄枯事過都成夢   = 【読み】<栄枯の事、過ぐれば都()べて夢と成る> 

 

人間是非一夢中   =出典:良寛  ◎七言詩「回首五十有餘年 人間是非一夢中〜」より。いいとか悪いとかの判断ものさしは正しいのかな?

 

心頭無事一床寛   =出典:禅語 【読み】<心頭無事にして一床寛し> ◎心頭滅却すれば一つの床も広々と感じられるものである

 

無一物中無尽蔵   =出典:禅語…中国禅宗第六祖・慧能禅師の言葉「本来無一物」より  ◎何もない中に限りない沢山なものが詰まっている。それを見つけ出せる人は無限の宝を得ることができるし、努力も工夫もしない人は何も見つけられない。

 

遠山無限碧層々   =出典:碧巌録  【読み】<遠山限り無く 碧層々> ◎遠く連なる山々が碧を幾重にも重ねてそびえている様子。

 

野水無心自去留   =出典:虚堂録 「青松不礙人來往」が前につく 【読み】<青松は人の來往を礙(サマタゲ)ず 野水無心に自ら去留す>

 

九天雲静鶴飛高   =出典:道元禅師『永平広録』 【読み】<九天雲浄らかにして鶴の飛ぶこと高し> ◎前句「四海浪平龍睡穏」=四海の浪は平らかであるから龍の眠りも穏やかである。九天の雲も清らかで鶴が高く飛んでいる。

 

漁人入得桜花洞   =出典:陶潜明/桃花源記 【読み】<漁人入りて桜花の洞をうる>(民間信仰=桃花郷伝説とも共通する)

 

満船明月載得帰 =出典:五灯会元         天地無私春又帰 =出典:禅語 

 

獨座山中天地静        白雲悠々去又来        平生富貴逐春来

 

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 <6文字>

 

徳如海 寿似山   =出典:伸聞詩  【読み】<徳は海の如く 寿は山に似たり> ◎徳は広い海の如く、寿は山に似て高い。

 

一花開天下春   =出典:虚堂録  【読み】<一花開いて天下春なり> ◎梅が咲き初めて、どこもかしこも春とはなった。

 

月在天水在瓶   =出典:禅語   【読み】<月は天にあり 水は瓶にあり >(月〜雲もある) 

 

雲林野思幽夢   =出典:倪瓉・元 【読み】<うんりんやしゅうむ> ◎雲にかかる林、野に住む思い、夢までが静かで安らかである

 

痴兀兀兀兀痴   = ◎坐禅が兀兀地と形容されるごろりとした山のような不動な身心の姿勢

 

南山雲北山雨 =出典:碧巖録      徳不孤必有隣 =出典:論語      夜静寒巌虎嘯

 

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< 5文字>

 

茶煙永日香」=出典:方囘  ◎茶を煮る煙がたち、ひねもす香しい。     「観白雲幽石」=出典:菜根譚 <白雲幽石を観てー玄に通ずー>

 

悠然見南山」=出典:陶淵明/飲酒 【読み】<悠然として南山を見る >    「浮生夢一場」=出典:王庭筠  ◎はかなき人生は一場の夢を見たに過ぎない。

 

鳥鳴山更幽」=出典:王籍 【読み】<鳥鳴いて山更に幽(カスカ)なり> 王安石の「一鳥不啼山更幽」はこの句には及ばない。

 

潜心観道妙」=出典:倪瓉 【読み】<心を潜めて道妙を観る>◎心を潜め考えれば、道の玄妙深遠がわかる

 

好事不如無」=出典:禅林句集 【読み】<好事も無きにはしかず>◎好い事を追い求めると得られない、とらわれのないところに得られる。

 

林下十年夢」=出典:禅林句集 ◎山で修行して山から出てきた男が湖で大笑いをしたという事。煩悩に悶悶とし気が付いたら実態は何もなかったということ。「湖邊一笑新」と続く。

 

日々是好日」=出典:碧巌録 【読み】<日々(ニチニチ)是れ好日(コウニチ)> ◎いつでも心地よい日である。でも良いことばかりではないから、執着、煩悩をたちきって清純無垢となりましょう。

 

白雲自去来」=出典:虚堂録 <青山元不動白雲自去来>より ◎白雲はただ流れるのみ。無心の境地になりたいものです。

 

日出乾坤輝」=出典:禅語(日出乾坤輝 雲収山岳青) <日出でて乾坤輝き 雲収(オサ)まり山岳青し> ◎太陽が登ると万物がその光を受けて世界が明るく輝き、雲が消え去ると山々は青々としてくる。

 

大賢如大愚」 【読み】<大賢は大愚の如し>  ◎非常に賢い人は知識をひけらかさないので、一見したところ愚人のように見える。

 

心清意自閑」 【読み】<心清ければ 意自から閑(シズ)か> ◎心が真っ直ぐで邪念がなければ、気持ちも自然と騒がしく乱れることはありません

 

渾兮其若濁」=出典:老子 【読み】<渾として其れ濁のごとし> ◎濁った水のように不透明である。濁った水を清く澄ますことができるのは“道”を体得した人物だけである。

 

萬里一條鐵」=出典:傳燈録 【読み】<萬里一條の鐵> ◎万里のように遠く離れた距離(気持ち)も、一片の楔(=レール)でつながる。以心伝心にも通じる。空っぽ、無になることの大切さを説く。

 

水急不流月」=出典:碧巌録 【読み】<水、急なるに月を流さず> ◎急流に映る月影は揺れてはいても流れることはない。真理は月のように変わらない。忙しい毎日を送っていても心を失わないように。

 

室閑茶味清」=出典:禅語 【読み】<室閑かに茶味清し> ◎静かな部屋に茶の香りが清らかにただよう。

 

山高月上遅」        「酒逢知己飲」      「宝在此山中」        「無々無是非

 

坐久収烟雲」        「樂亦在其中」      「此世随縁過」        「在幽石枯木

 

道勝則境静」        「松樹千年翠」      「巣龍栄華極」        「酔裏楽天真

 

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   4文字 >

 

「和敬清寂」=出典:茶祖・珠光の「謹敬静寂」を千利休が一字改めた語句 ◎和=お互い仲良く、敬=敬いあい、清=心も清らかに、寂=何事にも動じない心。

 

「清寂養和」  ◎静寂の中でこそお互いの心が通じ合う

 

「以和為貴」=出典:礼記 <聖徳太子の憲法17条の最初の文言> ◎調和する事を貴い目標とし。道理に逆らわない事を主義としなさい

 

「真空妙有」=出典:禅語 <吾心は秋月に似たり 碧潭に清く皎潔〜と続く。> ◎私達の心は秋の明月のように円満無欠であり、緑色の深淵に照り映えて清く輝いている。人みな仏になる性質をもっていることを、月にたとえている禅語です。

 

「長楽無極」=出典:漢瓦當 <長楽極まり無し> ◎楽しみが長くつづいてきわまりない。

 

「道法自然」=出典:老子  ◎人間の道は自然にのっとる、人為を加えてはならぬ。

 

「平安是福」=出典:明唐伯虎不如歌  <平安是れ福> ◎無事なのが是ぞ真の幸福である。

 

「大道無門」=出典:禅語 至道も同じ。◎大道は無象無形で人を拒否する関門もないが参入しがたい。 続く句は「千差路有り 此の関を透得すれば 乾坤に独歩せん」(その門はどの道にも通じている。その門を通ることができれば、天地の間を自在に歩けよう)

 

「天馬行空」 ◎何物にも遮られないで、素晴らしい勢いで進んで行く様子。考え方や着想が自由奔放である。

 

「行不由径」=出典:論語  <行くに径(コミチ)に由(ヨ)らず> ◎楽をして横道や近道を辿ろうとするものだが、結局そのような道は、成功へと導くことはない。大道を、そして正道を歩みなさい、その道は自らの意志で拓かれる。

 

「閑中至楽」=出典:蔡軾  <かんちゅうのしらく> ◎閑暇こそ、最上のたのしみ。人生の理想

 

「寛仁厚徳」=出典:漢玉銘 <かんじんこうとく> ◎心寛大にしてあわれみ深く、徳は積み重ねて厚い。

 

「上善若水」=出典:老子 <じょうぜんみずのごとし> ◎理想的な生き方は水の如きもの。

 

「独座中堂」=出典:菜根譚 ◎何物にも動かされぬ本心が、どっかと中心に坐っている。

 

「独座観心」=出典:菜根譚   「鳶飛魚躍」=出典:菜根譚   「日裏看山」=出典:『雲門廣録』、『禅林句集』 

 

「鳳来麟現」     「風花雪月」     「和気満堂」     「心到天真」     「山静興長」

 

「南風和暢」    「無為真人」    「心地寛舒」    「落葉帰根」

 

「澂()心静慮」     「和光同塵」      「花鳥風月」 

 

 

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 <3文字>

 

「 無量寿」   「 乾坤輝 」   「 耐風雪 」    「 動中静 」   「 閑是宝 」

 

「 観吾心」         「 脱手套」     「聴無聲 」     「静而舒 」      「 不老門 」

 

「 寿無涯」     「思無邪 」       「 莫妄想 」     「 恭則寿 」    「 不動智 」

 

「 虚()間静 」

 

 

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    <2文字>

 

「 寂静 」  「獨坐 」  「 花開 」  「 慶雲 」  「 澄観 」  「 飛雲 」

 

「 幽邃 」<ゆうすい> ◎奥深い       

 

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  <1文字>

 

「 無 」  「心 」  「 虚 」  「 和 」  「 壷 」  「 命 」  「 黙 」  「 寂 」   「 夢 」

 

 

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  < 歌 >

 

名物を 喰うが下司の 旅日記」 (S7.6 戦艦日向、秋田停泊の折)

 

昼下り 緑陰深し 五角堂」 (S20 冬頃 大邱にて)

 

破れたり ああ破れたり されどなお 我が生命の 今日も続けり」 (S20.8)

 

疲れ来て 尚疲れ来て 其の上に 斃れる身ならば 死ぬるともよし」 (S20.8)

 

ひとみなと かたりつかれて こし山の ふもとに君と ゆうげする今」 (人みな=吾を理解し難い人、君=野上義臣氏)

 

三界を 今こそさびしく 思いけり 両親去りし 今となりては」 (S22)

 

線香の 煙ゆらゆら のぼりあり 墓石に青し 苔の生えいて

 

花枯れし 姉の墓前に ぬかずきて 涙にぬるる 弟吾は

 

ほろにがき 薬あふれば かげあれど 光まばゆき あこがれの道

 

女下駄 借りて佇む 橋の上に いとど身にしむ 武庫の川風

 

若草は ほほえみいたり 花も尚 忘れ得ぬ日よ 吉永の里

 

胸に秘め言い終えもせぬ この思い 春は来たりぬ ああ春は来ぬ

 

急ぐなよ 何れ帰国の 身にしあれば 病むことあらば 父母の泣く」     S27.11

 

秋深み お星輝く 夜明けかな    S31.11  習字の研究会)

 

光ありて 雲は行くなり おもむろに あわれ 三十七の秋暮れんとす」 (S24)

 

今日よりは 火の塊とならんとは  あまりさびしき現実にして」 (昭和24年7月6日操山中学3−C教壇にて)

 

言いたきを 書きて破れば 秋雨や 音したたかに 白雲のゆく」 (S26.9.9)

 

吾はおも 夢を追うとぞ 定めけり 余りにさびしき 現実なれば

 

雨よ風よ山川よ ああふるさとは なつかしくあり

 

今年こそ よいことあるが 如くにて 鶏の声して 清らに明けぬ  S32)元旦

 

満奇洞は 天下の奇岩 億劫の 太古より成り ひれ伏して観る

 

神さびし 吉備津の宮居 銀杏散る  S50.11

 

柿くえば 丸き頬のふくらみて 入日なつかし ふるさとの山

 

風寒し 永劫の月 宙天に

 

この果てに 君あるが如く 思われて 春のなぎさに しばしたたずむ

 


水魚にたわむれし少年の頃 如月の月に親を尋ねて 泣きわびし夜 かくて我が青春は涙もて 我は芸道に狂い来て古希は今 更に迷わん この命なり

 

この山中の 地上に転々と また重なり合う 枯木の数々の 命なきが如き このわびさびを 書き続けよう そしたら 生きるかも知れない

 

琴線に 触れしことども さながらに もの言わぬ人の 水茎の跡(比田井天来先生の書を見て)

 

書は 須らく 楽しかるべし

 

神無月 光の窓の下にして 筆揮い居り 古希行かん日近く

 

春の雨にたたかれて 夏の炎に焼かれ行き 秋虫の声身にしみて  冬霜柱に紅く染め 若き命の人は行く

 

狐花 手折りて行くや 里の道

 

こおろぎの 鳴くや久遠の 闇深し

 

神さびし 吉備津の宮居 銀杏散る

 

肌寒き 吉備のぬばらに 彳めば 神さびませり 千木の宮居は

 

 

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  (北海道旅行〜S49.6

 

霧深き 白老の里に 踊りいる ピリカの歌の アイヌ悲しも

 

夕なぎの 阿寒の湖(うみ)は 静かなり 千古の謎を 秘めて語らず」 

 

風寒き 天都山に 登り来れば 知床岬と オホーツク海見ゆ」 

 

ドロの木は どこまで続くか 舗装路を バスははしれり 阿寒目指して

 

アスナロの 並木をぬけて 行くバスの 窓につめたし 北海道の風は

 

この湖は 何かさみしく 静まりぬ 四方の山々 水面に映りて

 

水無月の 千歳空港に 下り立てば 薄く曇れり 冷やかにして

 

万緑の 道は遙けし 月寒の 街を過ぎたり 札幌へ向う

 

石狩の 道標下の 信号に バスは停れり 昼過ぎし時

 

あこがれし 北海道の 土踏みぬ 青春の日より 四十二年後に

 

六十の 年坂越えて 北海に 旅する夫婦の 姿こそあわれ

 

左遠く 雄阿寒岳の 聾えたり 新緑の道を 摩周湖に向う

 

あちこちに 牛の群あり 青草を 食いておりけり 平原の朝

 

美幌には 残雪白し 右下に 遙けくひろがる 屈斜路の湖

 

バスの行く 舗装道路の 両側に 美しく並べり タンポポの花

 

アイヌとは 悲しきものよ 美幌なる 峠の宿に 熊と共に居て

 

緑濃き 野幌の雨は しとしとと よろこぶがごと 我を迎うる

 

遠山は 残雪白く 続きたり この峡谷は 風のつめたく

 

熊笹の オロフレ峠 登り行けば 左遙かに 洞爺湖の見ゆ

 

登別 地獄太鼓の 音冴えて 夜のしじまに とどろきわたる

 

新緑の 大平原は つづきたり 靄いと深し 苫小牧の朝

 

八千米の 高度より見ゆる 松島の 海の青さよ 新緑の山

 


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<沖縄・・・台湾>

五月晴れ 沖縄の島に たどり来て 散りにし人の あとをとむろう  」 (S48.05 沖縄)




南国の 花蓮の山の 芝に寝て ポインセチヤの 紅を見き」  (S50.11 台湾にて)

 

アミ族の美女のガイドが 日本の 歌を歌える 声や愛しも」  (S50.11 台湾にて)



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      <鹿久居島にて>

 

(ひげ)白く 鹿久居の島に 日やけ顔」 (S45.7悟牛・一臼合作)

 

海静か 浮身にうれし 鹿久居島            (S46.夏)

 

波音に 虫の鳴き入る 鹿久居島」           S47.7

 

沢蟹に 指つめられて 島の夏」                S48.7) 

 

墨の香や いよ夜の更()くる 島の夏」  (S49.7

 

真実と 書いて息づく 夜の島」                  S50.7

 

浮身する 教え子のあり 鹿久居島」         S51.7

 

 

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   <笠井山にて>

 

月に行く 驚異の人あり 新世紀」 (S49.10

 

あたたかき 心に浸る 十三夜  河田婦佐枝

 

月に吼ゆ 玉龍会の 集いかな」 (S50.10

 

厚衣(あつごろも) かぶりて名月 いまいずこ」 (河田婦佐枝

 

金粉の 酒召しませや 月の宿」 (S51.10)

 

ハーモニカ 音冴え渡る 山の家」 (S51.10

 

天と地を わけて今宵の 月はあり」(S52.10

 

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  <好みの歌>

 

ほろほろと なく山鳥の 声聞かば 父かとぞおもふ 母かとぞ思ふ  (名僧行基菩薩の歌)

 

急がずば 漏れざらましを 旅人の あとより晴るゝ 野路の村雨

 

宿かさぬ 人のつらさが 情にて おぼろ月夜の 花の下ぶし  (大田垣蓮月)

 

枯木に宿る鳥もなくただ上弦の月青し

 

この道や 遠く寂しく 照れれども いゆき至れる 人かってなし  (島木赤彦の歌)

 

 




 

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